玉川上水を歩いて100メートルくだる

 

玉川上水のことをよく知らない。 

 

 



デイリーポータルZ 17周年企画「自由ポータルZ:テーマ部門【デイリーの過去記事カバー】」に応募しました。

元の記事はこちら↓
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江戸時代に玉川兄弟が掘ったとか、太宰が身を投げたとか、そういう断片だけかろうじて聞いたことがある。

どうせもう埋められて暗渠になっているだろうと思っていたら、まだかなりの部分が遺っているという。

全長約43キロ。

一日(=12時間)で歩くにはちょうどいいくらいの距離だ。

知らなければ、歩いてみればいい。

 

 

ともかく歩いてみる(上流部) 

4:20

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玉川上水の始点・多摩川からの取水口は羽村市にある。青梅線。朝の6時には歩きはじめたかったが、家から遠いので始発に乗っても現地に着くのは6:30になってしまう。

 

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焦ってもしかたがない。玉川水神社でまずは道中の安全を祈願。

 

6:45 

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スタート地点の羽村取水堰を見渡す。快晴。水門の橋を渡って堤防の公園にはいり、用水にそって歩きはじめる。

 

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玉川兄弟。弟がひざをつき兄が後ろに立つキメポーズは、スタイナー・ブラザーズにも受け継がれている。

 

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おりしも、桜が満開の季節。早朝なのでまだ散歩している犬しかいないが、露天屋台の準備は昨日のうちにすましてあるし、花見客をみこした駐車場の誘導員さんもぼちぼち集合していた。

 

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「この竹をのぞくと富士山が見えますよ!」とある。近隣のかたのご好意だろうか。レンズもなにもハメこまれていない、ただフシを抜いただけの竹のつつ。

 

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わざわざ竹の中をのぞかないほうがくっきり見えた。

 

7:55 

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水喰土*1公園に到着。

 

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この徒歩旅行道中でいちばん楽しみにしていた最大の見せ場だ。

土が水を吸って(喰って)しまって水路としては使いものにならず、やむなく流路を変更したという遺構。

 

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U字に掘り下げられた水路跡がはっきりと残っている。重機などない時代だ。人力でクワやスキやモッコを使って掘り進めてきたのに、地面が水を飲みこんでゆくさまを目の当たりにして、どれほど落胆しただろうか。

 

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流路は変更されて、公園のすぐかたわらを流れている。こんなに近くを流すことができたのなら、もうちょっと気合いを入れれば水喰土の上も通せたのではないか。

 

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拝島駅から先、西武拝島線に沿ってほぼまっすぐ東へ。

 

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水はとても美しい。流れの速さは歩くのとほぼ同じ。

 

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用水脇の歩道はおおむね広くとられており、舗装されていないところも多い。柔らかすぎる地面は、ウォーキングシューズのクッション性と相まって、いささか歩きにくい。

 

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足音は「ボスボス」。

 

9:00 

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残堀川との直行地点。川の立体交差だ。この旅いちばんの見せ場といっても過言ではない。

 

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東西に流れる玉川上水が、南北の残堀川と交叉している。いったん低いところに落とした水をまた上げて、二本の川の水を混じらせることなく通過させている。逆サイホン? なんかそういうむずかしい物理法則みたいなのを活用しているのだと思う。

 

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「ふせこし*2」という語感が小気味よい。簡潔にして端的。ふせて、こす。すべて言いあらわしている。

 

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とても美麗な遊歩道。あたりの自然と混じるよう素朴な花壇がていねいに整えられている。おとぎ話のオープニングみたいだ。太極拳を楽しむグループがいた。

 

9:40 

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立川モノレール玉川上水駅に到着。

公衆トイレをお借りしてリフレッシュして、モノレールの写真を撮ったところで、iPhoneを落としてガラスを割ってしまった。めげる。

 

ひたすら歩いてみる(中流部)

 

9:45 

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東京都水道局小平監視所

 

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羽村からここまでは多摩川から直接水が流れてきていた。

ここから先は下水を処理した綺麗な水が流れているそうだ。清流を再現するためにわざわざ処理済の水を流してくれているのだという。

 

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上流部からまっすぐ連続している流れなので、違和感はなく、水の流れもつながっているかのように錯覚する。でもさっきまでとは別の水。

 

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飲めるだろうけど、飲もうとは思わない。

 

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昭和の終わりごろの「清流復活事業」によって整備される前は、空堀で捨ておかれていたらしい。きっとゴミなども多かったのだろう。

 

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足音は「ポクポク」。

 

10:45 

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とても魅力的な小屋を見つけた。玉川上水立坑。水平に流れてきた水を垂直に落とす、井戸のような滝のような地下施設だろうか。この旅いちばん興奮する。

 

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武蔵野線が地下を走っている真上だった。メンテナンス用のはしごか階段があるのだろう。列車の気配を感じてみたかったが、しばらく待っていても通過する電車はなかった。

 

11:00

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丸いポストがたくさん残っている街なので、小平市のプチ観光名所になっているらしい。市内のポストを紹介するイラストマップも置かれていた。

 

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しっかり護岸されていた上流部と比べて、崖肌法面の荒々しさがきわだつ。原生林のおもむき。

 

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公園や学校が多く、散歩する人やジョギングする人もたくさんいる。

 

12:10

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小金井公園の前を過ぎる。汗がふきでる。

このあたりに千川上水へと分水していた遺構があるらしいので、土手から身をのりだしてあちこち覗きこんでみた。

 

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たぶんこれだ。天狗の鼻のようにつきだした鋭角の分水嶺

案内板や解説のようなものがなかったので間違っているかもしれないけど、自力で見つけることができて嬉しい。この旅いちばんの大発見といえよう。

 

お祝いに、すぐ目の前のロイホに入ってランチビールをいただく。汗のぶんを補充。

 

13:20

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この橋の2本のすじは、かつての武蔵野飛行機工場(現 武蔵野中央公園)への引きこみ線路をイメージしたものだ。みなとみらいにある汽車道の遊歩道とおなじ。

  

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解説看板の充実っぷりがありがたい。

 

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ここに限らずあちこちに、びっしり書かれた解説板がある。自治体によってフォーマットがころころ変わるが、きっとこういう看板も清流復活事業に乗じて整備してくれたのだろう。おかげさまで勉強になる。

 

だが、細かくて長い文章をひとつひとつ読みこんでいては、いつまでたってもゴールできない。パシャパシャと写真に撮っておいて、あとからゆっくり読もう……。

 

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……あとで読もうと思って撮るんだけど、たいていのばあい、ほとんどまったく読み返さないよね。勉強にならない。

 

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ただし、分水の痕跡だけは見つけるととても嬉しいので、解説文をしっかり読んで、ちゃんと確認する。

  

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これは牟礼分水口。

 

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こちらは烏山分水口。

いずれもとても小さい取水口で、しかも雑草におおわれて隠れて薄暗いので、どこにあるかよくわからない。写真に撮ったときは場所がわかったからシャッターを押したはずだけれど、あらためて見てみると、どこになにがあるのやら自分でもわからない。

だからこそよりいっそう、その場で現物を見ることができると嬉しいのだな。いちごいちえ。

 

がんばって歩いてみる(下流部)

 

14:50

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突然、目の前から消えた。

 

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水は地下にもぐってしまう。開渠はここまで。

 

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ここからは暗渠。それどころか、中流部を流れてきた清流の水は地下で北向きに進路を変えていて、神田川にいってしまうらしい。玉川上水アイデンティティはどこへ。

しかたない。この先は感情を殺し、惰性で歩くことにする。

 

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思いを馳せる上水の記憶。

 

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上北沢駅の北からはずっと細長い公園がある。

  

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周りの道よりすこし高くなった土手状の公園で、とても心地良い。交わる道路に子供たちが飛び出してしまわないよう出口がちょっと迂回する作りになっていて、行ったり来たりさせられる。

 

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足音は「テクテク」。

 

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明大前駅のすぐそば、井の頭線の上を越える現代版のかけひ*3。風情をそぐ巨大で無骨な導管。

排ガスだらけの首都高のすぐ下を歩いてきて、暗渠感もなく、じわじわとエネルギーを削がれてきた。『1Q84ごっこをしてみてもちっとも楽しくない。

 

16:00 

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和泉水圧調整所。

疲れた。ここからまっすぐ新宿副都心(旧・淀橋浄水場)にむかう水道道路へゆこうかと日和ったことも考えた。でもこの晴天から逃げるのは惜しい。もうちょっとがんばって玉川上水をなぞろう。

 

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代田橋駅の北側、暗渠が甲州街道をななめに横切るあたり。ここだけ歩道がじわっと広がっていて、不自然な幅の植栽がある。

 

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公道と歩道と川の跡と私有地のコンポジション。良い景色だ。

 

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地面にへばりつくように視線を下げて、かつての流れをなんども眺める。この旅いちばんの地味な感動ポイントである。

 

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あれ? 開渠じゃん?

 

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代田橋駅の東側、親水エリアで子供たちがザリガニを採っている。

上流部とも中流部とも水は入れ替わっているけど、これもれっきとした玉川上水だ。見え隠れしながら、流れはこの先もまだ続いているのだ。ちょっと元気出てきた。

 

16:25 

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環七をくぐる地下歩道。

 

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おそらくこのトンネルの壁一枚へだてた地中に、水が流れている。

 

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気のせいか、水中にいるような。

 

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まわりは住宅密集地。湿地のようなグリーンの緩衝帯は貴重だ。

 

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都会的な、色数の多い花壇。

 

17:10

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富士急バスの会社の上に、ジェットコースターのオブジェがあった。でもこれは首都高を走っている自動車にむけてアピールしているものなので、地べたからはあまり見えない。

 

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新宿に帰ってきた。

この日いちばん心が揺さぶられる。20年前、この高層ビルの24階で働いていたが、すぐわきに玉川上水の痕跡があったなんて知らずに過ごしていた。忙しすぎたのだ。もったいない人生を送っていたな。

 

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短すぎて伝わらない導管オブジェ。

 

17:50 

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「まもなく閉門です!」と叫ぶ守衛さんの横をぬけて、新宿御苑にそってのびる内藤新宿分水散歩道を急ぐ。この旅いちばんの速足。

もうすぐゴールだ。

 

18:00 

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四谷大木戸跡に到着。

 

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約11時間半。

 

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45キロ余りの徒歩行であった。

 

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43キロ進んで100メートルくだる、とは

玉川上水を開削する工事はたいへんな苦労があったという。

吸水性の高い水喰土(関東ローム層)や硬い岩盤が邪魔をしたというのもあるが、なにより、取水口のある羽村から江戸の入口である四谷大木戸までの距離が約43キロもあるのに、標高差がたったの100メートル*4しかなかったというのだ。

 

43,000メートル進んで、100メートルくだる。

430mmで、1mm。

 

図に描くとこうなる。

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傾いているのかどうなのかほとんどまったくわからない。ぎりぎりだ。

ついうっかり掘り下げすぎてしまったら、電動ポンプなどで水を汲み上げるわけにもいかない。そんな緻密な計算と測量をこなしながら慎重に掘り進め、フルマラソン以上の距離をゆくというのだから、今の技術ならいざ知らず、すべてを人力で行っていた江戸時代だと完成までに何年もかかってしまったに違いない……。

 

と、思ったら、なんとたったの8ヵ月で掘ってしまったというのだ。

マジかよ、玉川兄弟! すげえな!

 

……いや。やっぱりおかしい。いくらなんでも早すぎる。12時間かけて40キロ以上の全行程を歩いた自分なら言える。

 

玉川上水を1日で歩くことはできても、8ヵ月で掘ることはできないと思う!

 

 

 


 

気になる。もうすこし知りたい

玉川上水は8ヵ月で完成したと、江戸時代の書物『上水記』に記されている。

 

そしてその『上水記』の実物が、東京都水道歴史館に保管されている。

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完本はここにしか存在しない貴重な『上水記』であるが、毎年、秋に一般公開されている。

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見に行った(※写真は常設展示の複製、本物は撮影禁止)。

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和綴じで製本された『上水記』全十巻のうち、第二巻だけは書籍のかたちをしておらず、一枚の紙が32×6つに折りたたまれ、広げると巨大な絵図*5になる。

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描かれているのはスタート地点である羽村取水堰(※写真は常設展示の複製、本物はもっとずっと鮮やか。そしてもちろん撮影禁止)。

驚いたことに、川や砂州の形は今の姿とほとんど変わっていない。あそこ歩いたよ。

 

さて、玉川上水が完成したのは1653年である。一方、この『上水記』が上梓されたのは1791年。なんと138年も間が空いているのだ。

一般に誤解されているようだが、『上水記』は玉川上水を開削した当時の歴史を記録した書物ではない。1700年代の江戸では玉川上水神田上水により市中に飲用水を引き入れ、利用し、管理し、メンテナンスもしていた。役人が水にまつわる仕事をこなすにあたって、運用の指南書が必要だったのだ。つまり『上水記』とは、ふだん使いの水インフラをどのように活用していくかについて書かれた実用書なのである。

そして、ついでに(第八巻に)玉川兄弟が開削した昔話がちょこっとだけ書かれているにすぎない。8ヵ月かかりましたよー。2回失敗して3回目に成功しましたよー。六千両の予算で足りなくなったので、追加で私財三千両ぶちこみましたよー。

もうとっくの昔に完成していて、毎日ふつうに使っている玉川上水だ。いまちゃんと使えてさえいれば、過去にどれくらい時間をかけて掘ったかなんて、問題にはならない。そんな思い出話は『上水記』の主題ではないのだから。

140年近くも昔のことだ。『上水記』の著者*6もお手上げだったらしく、「玉川兄弟よく分かりません。諸説あります。この先もっと詳しいことが明らかになったり、知っている人がいたら追記してー」的なことを書いている。

残念ながら、200年以上前にわからなかったことについてはずっとその後もわからないままで、8ヵ月・2敗3度めで成功・6000+3000両という基本情報はアップデイトされず、この唯一の『上水記』の記述に頼らざるをえない。

 

「上水記展」には参考展示として、当時使われていたものに近いと考えられている「水盛台」の複製も展示されてた。

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※写真はNGだったので、会場でスケッチ。ただし、これと同じものが実際に玉川上水開削工事に使われていたかどうかは不明。

これは今でいう水準器である。下の水盤にはった水面が平らになるように置き、離れたところの板と一直線になるように視線を固定して、土地の傾きを測る。

水盛台の図面の記述によると、一回の測量で約120メートル先の高低を見極められたという。43キロだと約360回測ればいいだけだ。それなら8ヵ月でできただろうか。

いやいや、行ったり来たり探りながら流路を決めていったのだろうから、単純に360回では済まないだろう。その何倍もの測量を経て、ようやく最適な流路をさぐりあてることができたはずだ。
その過程で、水喰土もあれば、硬い岩盤もある。人足や物資の不足、地権者との争いもあったかもしれない。梅雨もあれば、台風もきただろう。

 

8ヵ月。

はたして本当にそんな短期間で掘れるものなのか。

 

実証実験してみたいものだ。

 

 

 


 

おまけ:ついでに本を読んだ

 

『玉川兄弟』杉本苑子

1973年から一年以上にわたって新聞連載された小説。図書館で借りて読んだ。歴史物のフォーマットで、登場人物たちがイキイキと描かれており、起伏に富んだ展開の連続で、読んでいて飽きない。

8ヵ月の疑問について、小説家はどういう回答を導き出しているのだろうと気にとめながら読み進めたのだが……。

全13章のうち、初めの6章は上水工事を請け負うための悪戦苦闘と資金集めについて。
4月にやっと掘り始める(第7章〜)ものの、二度の失敗。
終盤の12章でようやく三度めの正直、羽村取水口から掘り始める。あれ? もしかしてこの小説は上下巻だったかなと不安に感じながら、最終13章。
惚れた腫れたや切った張ったの人情ドラマがしぶとく最後まで続き、なんと残り4ページで〇〇が××し、泣き、秋。そしていきなり時間をすっ飛ばして11月に全線通水する。

えー⁈ 掘るところ書いてないじゃん! やっぱりあまりにも資料が少なすぎて、小説でも8ヵ月の謎は解き明かせなかったのか……。

 

 

羽村市郷土博物館「特別展 玉川上水350年の軌跡」(2003/9/27~12/21)

 

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展示会の図録。これとても面白かった。ほかの資料には書かれていなかった説が大胆に書き連ねてある。なるほど、そういうことか。目からうろこ。

 

 

わからないことがあれば、考えてみればいいのだ。推測すればいいのだ。想像すればいいのだ。

自分にあったやり方で、資料をあたるもよし、再現実験してみるもよし、全行程を歩いてカラダで感じてみるもよし。

『上水記』の記述どおりの期間で完成したと信じるもよし、そんな短期間で掘れたはずがないと疑ぐるもよし、どれくらいかかろうとそんなの気にせず散歩するもよし。

 

43キロで100メートル。ゆるやかにもほどがある下り坂を歩いて、玉川上水に想いを馳せた。

 

 


 

デイリーポータルZ 「自由ポータルZ」で紹介していただきました。【もう一息】という評価でしたが、たくさんコメントやアドバイスをいただけてとても嬉しいです。

dailyportalz.jp

*1:みずくらいど

*2:伏越

*3:掛樋

*4:正確には92メートル

*5:縦1355mm×横5140mm

*6:石野広通