無人在来線爆弾は羽沢駅からきた
無人在来線爆弾がどこからやってきたのか。
それがはっきりしない。
※本稿は、2017年5月に某同人誌に寄稿した原稿を、一部改稿および補筆し、図版の差し替えをしたものです。記載されている内容は当時のものであり、テンションの高さもその時の気分の昂揚を表しているもので、現在(2019年11月)とは状況が異なっている点がいっぱいあります。どこがどう異なっているのかはいちいち確認していないんだけど、かなりたくさんあると思います。
※2019年11月30日(土)の羽沢横浜国大駅の開業を祝して、あらためてこの記事を上げますm(._.)m
- 無人在来線爆弾とは
- 東京駅に着弾する無人在来線爆弾
- 南から電車は走ってくることができない
- JRの線路が壊れたのはどこか
- どこで無人在来線爆弾を準備し待機させておいたのか
- 田町車両センターと東京総合車両センター
- JR貨物線のポテンシャル
- 羽沢駅、奇跡の場所
- 羽沢駅を見に行った
- ついでに羽沢駅の前後も見に行った
- 実はトンネルが……
- 2019年11月、羽沢横浜国大駅開業にむけて
- シン・ゴジラ関連地図
無人在来線爆弾とは
無人在来線爆弾とは、2016年に公開された映画『シン・ゴジラ』に登場した架空の兵器である。
東京駅に滞留する未確認不明生物ことゴジラを倒すために、同駅に入線する東海道線・京浜東北線・山手線・中央線の各線路を利用し、各在来線編成車両内部に爆薬を積んで自動操縦で運転し攻撃を仕掛けるというものだ。
同作の最終決戦であるところのヤシオリ作戦の一環で華々しく登場した無人在来線爆弾は、劇伴の伊福部昭作曲「宇宙大戦争マーチ」の高揚感と相まって、クライマックスシーンを否応なしに盛り上げてくれた最高のガジェットであった。
『シン・ゴジラ』がこれほどまでに絶賛され、リピーターが続出する異例の大ヒットとなったのも、無人在来線爆弾の絶妙なリアリティと構成・演出に依るところが大きいだろう。
※国鉄時代からずっとこれまで在来線はゴジラにやられっぱなしであったが、無人在来線爆弾でついに一矢報いたのだ。
しかしながら、実際に映画館に足を運んで『シン・ゴジラ』を見た自分は、終盤までずっと映画の世界に没入し夢中になってスクリーンを眺めていたはずなのに、無人在来線爆弾の登場とともに急激にその興奮が醒め、御都合主義の荒唐無稽さに一気に鼻白んでしまった。
それまでずっと現実にゴジラが出現したらどうなるかという現実味溢れるシミュレーションを元に物語を展開してきたというのに、無人在来線爆弾によってあっさりとそのリアリティが失われてしまったと感じたのである。
自分は無人在来線爆弾に否定的である。
こんなにも世間では称賛の大渦が巻いているというのに。
古くからの特撮オタクの義務として、都合3回『シン・ゴジラ』を見たのだが、何度見てもやっぱり無人在来線爆弾に失望した。
なぜなら「無人在来線爆弾がどこから来たのかが分からなかった」からだ。
東京駅に着弾する無人在来線爆弾
無人在来線爆弾(以下、「無在爆」)は、東京駅に入線する複数の線路を同時に使用して、爆薬を積んだ列車を並走させて、ゴジラに突入させる。
この「同時に」「並走」がミソである。
巨大な怪獣に確実にダメージを与えるにはちまちまと一編成ずつ順繰りに突入していては効果がないのだ。
その意味で、複数の路線が同時に入線している東京駅こそが無在爆に最もふさわしい活躍の場所であり、この地が最終決戦の場に決まったからこそ、ヤシオリ作戦の中核に無在爆が組みこまれたといえよう。
東京駅の構造
東京駅の構造を確認しておこう。
(画像は JR東日本:駅構内図(東京駅)2F部分一部拡大 右→が北)
東京駅に地上で入線する新幹線以外の在来線は、10本(ホーム10面)ある。
1〜2番線は中央線の終端であり、北側からのみの入線で南側には線路はない。
また東海道線から上野東京ラインへとつながる7〜10番線は、北側も南側も東京駅ホームに入線する直前で線路が2本の線路が二股に分岐しており、同時に4本の線路に並走して列車が入線してくることはできない。
つまり無在爆は
が突入するということになる。
北側からの8本については不明な点はない。
海から上陸したゴジラが街を破壊しつつ東京駅まで辿り着いた進路は南側からであり、北側には中央線を含め線路の破損部分はないからだ。
南から電車は走ってくることができない
問題は南側からの無在爆6本が遺漏なく入線することができたのか、である。
劇中の描写を順に追っていくと、東京駅の南側のJR在来線の線路がかなりひどい損傷を受けていることに気づく。
多くの場所で線路が破壊され、復旧には相当な時間がかかりそうである。
もちろん劇中において幾許かの時間と労力を割いて復旧にあたったらしき描写や説明は匂わされている。
しかしヤシオリ作戦および「無在爆」のような大規模な攻撃準備に全力を傾けている最中に、あちこちで破壊され破断された状態の線路を修理し、遺漏も遅滞もなく列車を走らせることができただろうか。
- 大規模な車両の改造
- 大量の爆薬の取り扱い
- 同時にスムーズに入線させる手際の良さ
ただでさえ不確定な要素の多い前代未聞の無在爆計画に際して、まともに線路がつながっていたとしてもその完璧な遂行は非常な困難を伴うであろう。
各所で寸断された鉄道線路をうまく修復して繋ぎつつ、同時に無在爆計画をも進行させられるであろうか。
不可能ではないか。
それなのに映画の中ではあっさりと無在爆がやってくる。
拍子抜けだ。
せっかく盛り上がっているところに水をさして悪いと思う。
疑問に感じるだけ野暮だというのも分からないではない。
でもどうしても『シン・ゴジラ』に乗り切れない。
なぜなら「無人在来線爆弾がどこから来たのかが分からなかった」のだから。
JRの線路が壊れたのはどこか
たとえ劇中に矛盾があったとしても、どうにかしてその辻褄を合わせる解釈を導き出し、理路整然と無在爆を東京駅に進行させることができれば、心の底から『シン・ゴジラ』を楽しむことができるようになるわけだ。
どうすれば東京駅にたどり着けるのか、ひとつひとつ検証し、なんとかして無在爆に現実味をもたせてやろう。
前半戦
ゴジラは東京湾に現れ(第一形態)、蒲田に上陸(第二形態・通称「かまたくん」)、北上して品川で自衛隊機と対面(第三形態・通称「しながわくん」)、そしてまた東京湾に消える。
呑川を遡上して蒲田に上陸したゴジラは、街を破壊しながら這いつくばって北進。
そのまままっすぐ自衛隊のヘリと対峙した品川の新八ツ山橋踏切手前へゆけば、東海道線や京浜東北線の線路をまたぎ越えることはない。
しかし劇中では、ゴジラが「品川歴史館」の前の都道421号線を這いずっている様子が空撮映像で挿入されている。
上陸した蒲田駅前は線路の東側で、品川歴史館は線路の西側。
すなわちどこかで2回、東海道線および京浜東北線の線路をまたぎ越え、破壊していることになる。
どこで線路を越えたかは諸説ある。
まず東から西へ1回目の横断。蒲田駅のすぐ北・呑川沿いを東京工科大学に抜けたとか、環七の陸橋を渡った(その場合、JR線路は壊れていないことになる)とか。
自分は「入新井西公園」付近で越線したと推測する。
この場所は蒲田駅~品川歴史館の最短距離をむすぶ直線上にある。
まだ運動能力が未発達で、這って進むことしかできなかったかまたくんは、あまり高い建造物にぶつかってしまったら全身できなくなっていただろう。
平坦で障害物のない「入新井西公園」が越線に都合がよかったはずだ。
つまり、この時点で①京浜東北線と東海道線の線路は寸断されている。
ちなみに次に西から東へ戻った地点だが、これは421号を道なりに行くと大井町駅の南側にある「大井陸橋」を越えることができる。
ここで西から東へ移動したとすると、ほぼ線路は壊れていないことになる。
とすると、東から西へは環七の陸橋(春日橋)、西から東へは421号の陸橋(大井陸橋)に登って線路を越えたとするならば、JRにほぼダメージはないことになってしまう。
しかしあのかまたくんが、そんなに上品に線路を壊さないようにわざわざ橋の上を選んで通過するだろうか。
いくらなんでも、それはちょっと都合が良すぎる解釈だと思う。
したがって蒲田〜品川の間で少なくとも1箇所は線路が破壊されてしまっているとみなしても間違いはないだろう。
これが前半部分。
後半戦
続いて、二度目の出現(第四形態・通称「かまくらさん」)。
由比ガ浜海水浴場より上陸したゴジラは鎌倉市街を北上。
その際、一度②横須賀線を横切って踏みつぶしている。
鎌倉駅〜北鎌倉駅間の「扇ケ谷ガード」下から見上げるように目撃された姿が、ゴジラが鶴岡八幡宮付近にいることを示しているので、横須賀線を越線していることは間違いない。
そして空撮にて、桂台の広大な住宅街が蹂躙されている様子が映し出され、次に道路から移動しつつ見上げる形でゴジラが写る。
この見上げるゴジラの映像は、横浜市旭区の資源循環局(ゴミ処理施設)の巨大な煙突をCGで置き換えてつくられたものであり、桂台から旭区資源循環局へは、まっすぐ北進することになる。
この道中で、③京浜東北線(本郷台-港南台)を破断・④東戸塚駅北側付近で、東海道線および横須賀線を越え、⑤帷子川と交差するあたりで東海道新幹線も破壊している。
さらに(劇中ではすっ飛ばされているが)⑥横浜線も横切っているので、壊してしまっているだろう。
新横浜-小机間の横浜スタジアムのあたりが平坦で歩きやすかったと思われる。
そしてタバ作戦。
武蔵小杉駅~丸子橋が交戦エリアであり、⑦南武線、⑧横須賀線、⑨東海道新幹線の被害は甚大であったと推測される。
都心に侵攻したゴジラは、おそらく五反田あたりで⑩山手線の内側に踏みこみ、内閣総辞職ビームを発し、東京駅で動きを止める。
つまり劇中においてJRの線路だけで計10ヶ所が破壊・損傷・寸断されている可能性が高い、ということになるわけだ。
どこで無人在来線爆弾を準備し待機させておいたのか
これを踏まえて次に確認しなければならないのは、事前の無在爆の置き場所である。
無在爆のめざす攻撃目標先は東京駅である。
東京駅には南側から「山手線」「京浜東北線」「東海道線」の各線路が各2本ずつ計6本やってくる*1。
無在爆の準備には
- 複数の車両編成を同時に駐機することができる車両基地のような場所
- 爆薬の積みこみなどの準備や改造・調整・実験などができる場所
- 東京駅まで遅滞なく誘導できる距離にある関東近辺の場所
- 万が一、事前段階で爆発してしまっても周辺への被害を最小限に止めることができる場所
これらの条件を満たす必要がある。
さらに想定よりも早くゴジラが活動再開した場合、あまり東京駅に近すぎる位置だとせっかく準備した無在爆を避難させる時間が取れず、最悪の場合、誘爆して被害を拡大させてしまうかもしれない。
速やかに後退・退避できなければならない場所という条件も加味されていた可能性がある。
中央線を含む東京駅の北側から入線してきた無在爆については「尾久車両センター」がこれらの条件を問題なく満たす(ので詳細の検討は省く)。
南側からの攻撃についてのみ詳細に検討を加える。
田町車両センターと東京総合車両センター
では、東京駅の南側から侵攻してきた無在爆についてはどうだろう。
攻撃直前に無在爆が駐機していた場所は「田町車両センター」および「東京総合車両センター」ではなかろうか。
※山手線の田町〜品川間は、同環状線区間のなかでもっとも距離が離れており*2、大規模な車両基地が挟まれている。
※以下、空撮写真はすべてGoogleマップ3D表示の画面キャプチャ。
「田町車両センター」は品川駅の北側にある広大な車両基地エリア*3で、尾久と同様に上記条件をほぼ満たす。
田町車両センターからは山手線・京浜東北線・東海道線の6編成が同時に並走して東京駅まで進行することが可能である。
尾久も田町も東京駅から6〜7kmほどの場所であり、ヤシオリ作戦直前の待機場所としておよそ24時間前には無在爆はそれぞれの位置に並列して集結していたと考えてほぼ間違いないだろう。
だが、この田町車両センターには致命的な欠陥がある。
品川駅直前で①京浜東北線および東海道線、⑩で山手線が破壊されているため、東京総合車両センター(山手線基地)から入線してくる山手線以外の京浜東北線・東海道線は無在爆に馳せ参じられないことになってしまうのだ。
前半戦で、蒲田から品川、そして海に逃げたゴジラ。
この際①京浜東北線と東海道線が壊れている。
劇中、品川から去った巨大不明生物のことを伝えるニュース映像で人々がふだんと変わらない日常を取り戻したかのような描写がある。
このことより「鉄道線路のダメージは軽微で、通勤通学に支障がなかったのではないか」と解釈することもできる。
しかしながら、呆然と瓦礫の中に立ち尽くす主人公の怒りの激しさをみるにつけ、壊されたのは建物や道路だけでなく、鉄道も被害甚大であったと考えるほうが自然だろう。
そして後半戦では京浜東北線と東海道線は③本郷台-港南台・④東戸塚駅北側付近でも壊されており、西の小田原方面から大船あたりまで来ることはできても、そこから都心に進入するのは難しくなっている。
※山手線基地である東京総合車両センター。
右側に走る京浜東北線などとは直接つながっていない。
「東京総合車両センター」は京浜東北線大井町駅(写真の下)に隣接しているが、車両の出入りは山手線大崎駅(写真の左側)から行われている。
五反田駅あたりで⑩山手線も破断されているので、新宿方面から山手線外回り経由で大崎へたどり着くことができない。
横須賀線を経由して西大井方面から東京総合車両センターへ補給しようとしても、⑦⑧武蔵小杉駅付近が壊滅的な被害を受けているのでたどり着けない。
また鎌倉の南側で②横須賀線も壊されているため、自衛隊や米軍基地のある久里浜や横須賀から大船への北上ができない。
新川崎駅隣接の「新鶴見機関区」は広大な敷地を有し、無在爆準備に有効活用したい場所であるが、北は⑦⑧武蔵小杉で行き止まりになり、南の川崎や鶴見の方に迂回しても蒲田から先には進めない。
※新川崎駅に隣接する新鶴見機関区から、武蔵小杉のタワーマンション群をのぞむ。ここから伸びる線路の先はタバ作戦により寸断された。
つまり、無在爆に山手線以外の東海道線や京浜東北線の車両が参集することができた状況が説明できない。
すなわち「無人在来線爆弾がどこから来たのかが分からない」ということになってしまうわけだ。
いったいどうすれば東京総合車両センターや品川の北側の田町車両センターまで無在爆に必要な車両を到達させることができるのか。
落ち着いて冷静になって、あらためてこの場所に無在爆に使用する車両を集めるルートを再検討してみる必要がある。
どこかに見落とした抜け道があるに違いない。
JR貨物線のポテンシャル
結論から先に言おう。貨物線を活用したのだ。
「羽田空港アクセス線」
2020年の東京オリンピックで来日する外国人観光客の利便性を高めるため、JRの路線を羽田空港へ直接乗り入れようという計画があるらしい。
スケジュール的に五輪開催までには間に合わないということで一旦据え置きになったようだが、まったくの夢物語というわけではなく、じゅうぶんに実現可能性のある路線だという。
2019年現在、羽田空港には東京モノレールと京急線が乗り入れている。
JR在来線は狭軌(1,067mm)なので、そのままでは標準軌(1,435mm)の京急線に乗り入れることはできない。
またモノレールに乗り入れられないことは言うまでもない。
JRが羽田空港に乗り入れるためには独自に線路を敷設しなければならないが、その際に転用を検討しているのが貨物線なのである。
「東海道貨物線」こと「大汐線」
「汐留駅」とは旧「新橋駅」、現在の汐留シオサイトにあたる。
東京駅の開業後に旅客駅から貨物駅に転用された汐留駅は、1986年に廃止された。
※「旧新橋停車場跡」に再現されて残っている当時のレール。
『鉄道唱歌』で「♪汽笛一声、新橋を~」と歌われてるのはこちらの旧「新橋駅」だ。
そして「大井埠頭」こと「東京貨物ターミナル駅」は、現在も稼働中の、日本最大の貨物駅である。
※東海道新幹線の車両基地に隣接する「東京貨物ターミナル駅」。
貨物駅としての汐留駅が廃止され、その後しばらくして大汐線も休止となっているが、線路は残っている。
架線は外されているらしいが、いざとなれば敷設し直すことも可能だろう(地面ごと破壊された線路を敷き直すよりはずっと早いだろう)し、ディーゼル車で牽引してもよい。
※東海道新幹線が車両基地から出て東京駅方面へ入線する線路に並走して、大汐線の貨物用線路も伸びている。
東京貨物ターミナル駅のその先
ではこの東京貨物ターミナル駅を無在爆の準備に使ったのかというと、たしかにその説も魅力的なのだが、でも焦らず、ちょっと待ってほしい。
ヤシオリ作戦の初口を切ったのは新幹線N700系を利用した「無人新幹線爆弾」であった。
この無新爆をどこで準備したのかというと、それは間違いなく東京貨物ターミナル駅に隣接する東海道新幹線の車両基地であったろう。
はたして、無新爆を準備するすぐ横で無在爆の準備をするだろうか。
システムの連携や、流用・転用可能な技術の相互交流などの便を鑑みると、無新爆と無在爆をすぐ隣で準備した方が効率がいいようにも思われる。
しかし、取り扱う物は大量の爆発物である。
10キロも離れていないところには、内閣総辞職ビームを発するほどの遠距離攻撃能力を有する巨大なゴジラが屹立している。
万が一、予想よりも早くゴジラが活動を再開して、自分を攻撃しようと準備を進めている無新爆と無在爆の存在に勘付いたとしたら。
一閃されて、すべては無に帰す。
無新爆と無在爆の待機位置は、作戦のぎりぎり直前までなるべく離れたところに置いておいたほうが被害を最小限に留めることができ、安全である。
幸いにして、新幹線の車両基地は彼の地以外の選択肢に乏しいものの、軌を一にする貨物線と在来線はこの先の線路を利用して、もう少し退進したより安全な場所に拠点を構えることができるのだ。
その線路というのが、先に述べた羽田空港アクセス線への転用を検討されている東海道貨物線(大汐線)の南側部分である。
東海道貨物線は羽田空港の地下をかすめ、多摩川を越え、「川崎貨物駅」に至る。
※川崎貨物駅から北へはすぐ地下にもぐり、多摩川の川底を進む。線路のゆく先に見えているのが羽田空港。
この川崎貨物駅から羽田空港へ向かう間に流れているのが多摩川の河口付近であるが、実はこの場所は東京湾に現れた尻尾だけの姿の巨大不明生物(第一形態)が、多摩川〜海老取川〜呑川と進攻した場所でもある。
※東京湾にあらわれた巨大不明生物が、なぜか川幅の広い多摩川をそのまままっすぐ遡上せずに、天空橋方面の海老取川へと進路を変えた「五十間鼻無縁仏堂」。
まだ未成熟なゴジラが、なぜ多摩川から狭くて細い呑川方面へと進路を変えたのか。
ひょっとしたら、川底の奥に敷設されたこの貨物線路の動きを感じ取り、地下の線路を流れる電磁波か何かの影響を受けて、誘われるように海老取川へ進路を変え、やがてその信号を見失って、さらに呑川に迷い込んだのかもしれない。
この際に地下の東海道貨物線が損傷していなかったことが、後々効いてくる。
閑話休題。
羽沢駅、奇跡の場所
※貨物線は浜川崎駅から南武線・浜川崎支線を経由して、「飛鳥ドライビングカレッジ川崎」の上をゆるやかに曲がり、東海道線・京浜東北線に並走して鶴見駅方面に向かう。
ここでもう一度、これまでに線路が壊されていた10箇所を見て確認して欲しい。
品川〜蒲田間、および武蔵小杉付近で致命的な断絶を余儀なくされていた在来線路が、臨海部を走る貨物線路によってみごとにバイパスされてるのだ(③本郷台-港南台・④東戸塚駅北側付近については後述する)。
東海道線・京浜東北線は並走する貨物線路を使い、横須賀線や新鶴見機関区からも南武線や鶴見線を使って、浜川崎から先の東海道貨物線へと進行することができる。
東京総合車両センターにいた山手線も、休止している大汐線を使っていったん退いてきたにちがいない。
ではどこまで戻って無在爆を準備したのか。
※東海道線・京浜東北線・横須賀線、そして京急線に挟まれて、ひっそりと地中に潜ってゆく貨物線路。
約7キロものトンネル区間を経て、開けた先にあるのが羽沢駅*4なのである。
この羽沢駅が、先に挙げた無在爆の準備に必要な条件
- 複数の車両編成を同時に駐機することができる車両基地のような場所
- 爆薬の積みこみなどの準備や改造・調整・実験などができる場所
- 東京駅まで遅滞なく誘導できる距離にある関東近辺の場所
- 万が一、事前段階で爆発してしまっても周辺への被害を最小限に止めることができる場所
をすべて満たしている。
この羽沢駅は、東京駅から直線距離で25キロ以上離れている。
駅に出入りする前後の線路は(後述するように)地下トンネルに覆われている。
いざという時に退避する地下トンネルが駅の前後に近接しているというわけだ。
第三京浜「羽沢IC」にも接続しており、横浜港から荷揚げされた資材を速やかにこの羽沢基地に運びこむことができる。
都心ほどの人口密集地ではなく、近隣住民の避難もさほど困難ではないだろう。
諸条件を鑑み、無在爆を準備したと推定される羽沢駅の絶妙なロケーション、絶妙な構造。
羽沢駅がなければゴジラは倒せず、羽沢駅があったからこそゴジラを倒せた。
これぞ天然要塞、まるで無在爆のためにあらかじめ準備されていたかのような奇跡の駅なのである。
すなわちこの場所こそが羽沢駅、いや、対ゴジラ殲滅作戦最重要の「羽沢基地」であるのだ。
※隣接する環状二号線から北進して鴨居駅方面に抜ける「羽沢池辺線」は、残念ながら工事中で未開通。
※羽沢基地より東京駅方面を臨む。敵はあそこにいる。
羽沢駅を見に行った
2017年4月、羽沢駅を見に行った。
正式名称は「横浜羽沢駅」であった。
JR貨物の駅である。
想像以上に広大な敷地だ。
ここを使えば無在爆なんて山ほど作れちゃうだろう。
爆薬の取り扱いにも問題なさそうな空隙ポテンシャルを秘めている。
浜スタ8個分の敷地で取り扱える爆薬の量はいかほどか。
一部エリアで工事が進められていた。
基地の地下にシェルターでも作っているのだろうか。
明日を担う交通ネットワークを作っているのだ。
トンネルを掘っているのだ。
「羽沢トンネル」。
地下から気づかれないように接近するためのものだろう。
「2017年4月15日現在 掘進位置 発進立坑から 873.6m」。
突っ込んでくるイノシシはひょっとして無在爆の比喩か。
貨物の取り扱いのみで旅客電車の停車がない羽沢駅だから、駅前はそっけなく、徒歩での来客を拒むような雰囲気すらある。
というか、駅の中には入れない。
しかしこの時工事しているトンネルというのは、実はこの羽沢駅を旅客駅として転用するための延伸トンネルだというのだ。(以下略)
※2019年11月30日、「羽沢横浜国大駅」として相鉄線~JR線の相互乗り入れ開始。
ついでに羽沢駅の前後も見に行った
羽沢駅は拓けた広大な平地にあるが、その周囲をよく見ると、四方をすこし高い土地に囲まれている。
羽沢駅に入線してくる上り下り両線路は、すべて地下から地上に出てくる。
増大する貨物を旅客用の在来線でさばききれなくなったため、新たに貨物専用路線を建設しようと計画したが、そのころには周辺地域の宅地開発も進んでいた。
用地買収も困難で、周辺住民からの反対運動もあり、地上に線路を敷くことができなかったという事情もある。
羽沢駅の前後はいずれも長大なトンネル区間なのである。
上星川駅より
羽沢駅のちょっと手前から、貨物線をたどってみよう。
猪久保トンネルの出口。
相鉄線の「上星川駅」の南の丘の中腹から、ぐわっと飛び出す高架線路。
上から見ると、線路の上にふたがしてあってトンネル状に四方をすっぽり囲んでいる。
相鉄線をまたぎ越え、
八王子街道もまたぎ越え、短い八幡トンネルを経て、
800メートルほど東進して、丘肌より再び地中(釜台トンネル)へ。
500メートルほどもぐって、線路が地上に姿をあらわすと、
目の前はもう羽沢駅だ。
大口駅のほうへ
続いて、羽沢駅を出て都心(東京貨物ターミナル駅方面)へ向かう。
環状2号に沿って高架線路が伸びる。
先ほどのトンネルとは違って、線路の上部にフタは被せられておらず、開放されている。
周囲が高速道路や山間部であるので、トンネルにしてまで騒音対策を施す必要がなかったのだろう。
港北トンネルに入る。
しばらく地中を走った後、横浜線「大口駅」ほど近くで、いったん線路が地上に出てくる。
ただし、こちらもしっかり屋根が施されている。
住宅街に現れる四方をしっかりと覆われた高架線路。
立体的に交差する横浜線。
周囲を歩き回ってずっと耳を澄ませていたが、このトンネルの中を走っている貨物列車の音は聞くことができなかった。
とても静かな日常の中に、一筋のトンネル(この先は生見尾トンネル)。
そしてまた地中をしばらく走り、ようやく地上に線路が現れる。
この先は前述のとおり、鶴見駅、浜川崎駅、川崎貨物駅、羽田空港の地下を通って、東京貨物ターミナル駅へと至る。
行け、無在爆。
貨物線路が生見尾トンネルのように完全に覆われた無音の状態になっているのは、横浜新貨物線反対運動などの影響もあったわけだが、それはまた別の話。
実はトンネルが……
ここまで長々と好き勝手に自説を述べてきた。
もうちょっとだけ補足させてほしい。
※羽沢駅の西側、④と⑤の間の線路がどうなっているか、気にならないか。
在来線の線路はこれまでさんざんゴジラに踏みつぶされて破壊されているという前提で論を進めていた。
貨物線だって地中に潜っていない限り、上星川駅付近や大口駅付近で露出しているような高架式のトンネルだったとしたら、きっと破壊されてしまっているだろう。
東戸塚駅のすぐ北側はこんな地形である。
トンネルがあるのだ。
東戸塚駅(写真の左下)から伸びる(写真下から順に)東海道線・横須賀線・そして貨物線。
東海道線は「清水谷戸トンネル*5」、横須賀線は「品濃トンネル」、貨物線は「猪久保トンネル」にそれぞれ潜っていく。
そして北進する環状2号(写真右にS字に伸びる)は、トンネル上部の谷あいを通っている。
おそらくゴジラは、この環状2号をたどって北進したのに違いない。
だから貨物線路は(そして実は④の位置の在来線路も)無事だったのだ。
異論は認めない。
……ついでのついでにもうひとつ付け加えておくと、③の本郷台~港南台駅間の京浜東北線も、「日野第2トンネル」に守られているので、無事だったと思われる。
ま、そういうこともあるw
2019年11月、羽沢横浜国大駅開業にむけて
(以下は、2019年11月に追記したものである)
過去に書いた記事ではまだ名称が決まっていなかった旅客用の羽沢駅であるが、2017年末に「羽沢横浜国大駅」と決まった。
先に見に行った貨物駅の「横浜羽沢駅」とは別の駅であるが、同じ位置にある(旅客線路は地下にある)。
開業を間近に控えた2019年10月末、あらためて羽沢駅を見に行った。
駅舎はほぼ完成しているようだ。
しかしまだ周辺道路の整備など、最後まで工事は続けられている。
商業施設などが隣接するはずの駅周辺は、空き地のまま。
トンネル工事は平成30年までと書いてあったはずだが、駅の工事は期間が伸びたのか、開業予定日(11/30)以降も続けられるようである。
相鉄線が、JRに乗り入れる様子の動画を公開していた。
羽沢駅*6より先、長いトンネルを疾走する様子を眺めながら、BGMに「大戦争マーチ」を流して、無人在来線爆弾の気持ちを存分に味わいたいと思う。
シン・ゴジラ関連地図
ロケ地や劇中に登場した地点、そして無人在来線爆弾がどこからきたのかを、自分なりの『シン・ゴジラ』地図にまとめた。
結論は出た。
無人在来線爆弾は羽沢駅からきたのだ。