ナニカの地上絵
GPSが好きだ。
GPS地上絵とは
GPS地上絵とは、GPS端末を身につけて地上を歩き回り、その軌跡(ログ)を描画線として地図上に大きな絵を描く遊びである。
「GPS地上絵」で画像検索すると、これまでたくさんの人たちが大地に描いてきたみごとな地上絵を見ることができる。
「GPS絵画」とも呼ばれる。英語では「GPS Drawing」もしくは「GPS Art」。
GPS地上絵の魅力をあげるとするならば、次のような点であろうか。
- 絵がデカい。
- 歩く・移動する・全身を使う。 =行動が絵の完成につながる。
- 描いている時には全体が見通せない。 =出来上がりを確認する喜びと驚きがある。
さらに付け加えるなら、
- 地図を眺めながら事前にあれこれルート計画をたてるのも楽しい。
というのもあるかもしれない。
(4.については、地図を見るのが苦手な人もいるだろうから、そういう人は誰かがあらかじめ作っておいてくれたルートを辿ればいいのだ)
ところが、このGPS地上絵の魅力は、そのままひっくり返せばGPS地上絵がとっつきにくく感じられる理由にもなってしまう。
- デカすぎて描くのが大変。
- たくさん歩かなければならなくて描くのが大変。
- 描いている途中に何を描いているのかがわからず、モチベーションを維持しづらい。
とにかく「苦行」なのである。そして
- 事前に地図を見て下絵を描くのがとてもむずかしい!
一般的にGPS地上絵というと、街路地図をじーっと何時間も眺めて、複雑に入り組んだ道路の作りからなにか絵になりそうな形が浮かび上がってこないか、ひたすら考えるというところから始めなければならない。
これはGPS地上絵で遊ぶさいの一番の醍醐味でもあるのだが、一番の障壁でもある。
とにかく準備に(そして描画にも)時間がかかるのだ。
「いっしょにGPS地上絵を描こうよ〜」と友達を誘っても、長時間・長距離を歩くことのハードルが高すぎて、なかなか面子を集められないのである。
「ナニカの地上絵」
もっと手軽に気軽に、GPS地上絵を楽しめないものだろうか。
そう思って、子供とでもいっしょに遊ぶことのできる「ナニカの地上絵」というゲームを考え出した。
言うまでもなく、ナスカの地上絵のもじりである。
「ナニカの地上絵」とは
GPSを使って地上に絵を描くという意味ではGPS地上絵の一種なのだが、先に挙げたようなGPS地上絵の敷居の高さを払拭するような簡単なルールで遊ぶことができる。
- 絵はデカい。けど、さほどデカすぎない。
- 10分ほど歩くだけで完成する。
- 全体を見通しながら描くことができる。
- 道路にそって描くわけではないので、地図とにらめっこしなくてもいい。
準備するもの
「GPSロガー」と「歩き回ることができるそこそこ広い場所」だけ。
今回はGPSロガーとしてこちらの無料アプリを使わせてもらった。
「そこそこ広い場所」は、歩き回れる公園など、てきとうな場所を見つけてくる。
上空に遮るものがなければそれだけ、GPSの感度も高まるので精密な絵を描くことができるだろう。
障害物や、他の人たちや、自動車などに気をつけるのは言うまでもない。
基本的な遊び方
「GPSロガーを持って一筆描きで歩きながら絵を描く」だけ。
まずは実際に描いた記録を見ていただこう。
ゾウを描いた。
描くのにかかった時間は6分10秒。歩いた距離は約180メートル。
道や建物(一般住宅)の大きさと比べると、街路をたどるいわゆるGPS地上絵よりもずっと小さいことがわかるだろう。
gifではさらっと描いているように見えるが、ここまで描けるようになるにはいろいろと試行錯誤があった。
初めに小学生の娘が描いたゾウ。
本人もあまり出来に満足していない。
「そこそこ広い場所」を歩いてまわって地上に絵を描くのだが、もちろんそこには目印のようなものはない。
リアルタイムで描画される自分の軌跡を確認しながら、次にどちらに向かうかを判断して、歩いて線を引いていくわけだ。
いわゆる地図を読むことができる能力そのものは必要ないが、空間把握能力とか、立体視とか、客観性とか、磁場が見える能力とか、なんかそのへんの才能(センス)はあったほうが楽チンかもしれない。
上手く描くコツ・その1
あらかじめ一筆描きの下絵を描いておくといい。
下絵と見比べながら、出来具合を確認しつつ丁寧に歩くのだ。
「ウサギ」。
「カメ」。
四肢に苦労している。甲羅から出て脚を描き、また甲羅の外郭線にうまく戻ってくるのが難しい。
「イカ」。
2本の長い触腕はあらかじめ描いた下絵にはなかったが、歩きながら即興でアレンジした。
慣れてくるとそういうこともできるようになる。
鼻歌交じりでこれくらい描けるようになるまでには、ずいぶん時間がかかった。
娘が最初に描いたゾウは、下絵も何も無しにいきなり描いたもので、それはけっこう無茶な挑戦だったのだ。
上手く描くコツ・その2
最初の最初に、娘がいきなり描いたナニカ。
「できた!」と画面を見せられたものの、何を描いたものやら、さっぱりわからなかった。
あ、こっち向きに見るのか。
「リンゴ」だ!
まっすぐ向こうを見ながら歩いて描いたものだから、てっきりあっちが上だと思っていた。
上と下、つまり地図の北と南を意識せずに、ぐるっと逆さまに描けてしまう娘のフリーダムな感覚には驚いた。
が、その芸当を真似するのは難しいから、素直に北を上にして描き始めるのがいいだろう。
スマホやタブレット本体をぐるぐる回して向きを確認するのもいいけど、それだと混乱すると思うよ。
あとで気付いたのだが、アプリ上でも地図の方角を自在に変更することができる。
描く場所に応じて、地図をぐるっと回して好きな方角を上方に据えて描くと(端末をいちいち持ち替えるよりも)やりやすいと思う。
上手く描くコツ・その3
地面にちょうどまっすぐな線があったので、これを基準にしてみた。
自分の位置を把握できるようになるとずいぶん描きやすくなる。
「チューリップ」。
まっすぐ伸びた茎の部分で、地面に引かれた直線を辿っている。
絵が左斜めに傾いているのは、地面の直線が北方向に対して斜めに傾いていたから。
真ん中の線を基準に左右対称に描けばよかったので、自分の位置がわかりやすくて描くのが簡単になった。
「イチゴ」。
これも中心線を意識しながら描いている。
モチーフが左右対称の物を描く場合には使える小ワザである。
上手く描くコツ・その4?
これは……
「桃」だ。
この「桃」の右のふくらみがちょっと齧ったみたいにへこんでいるのがわかるだろうか。
描いているうちにじわじわと描画エリアが広がってゆき、そこに停めておいた車に近づいていって……、
シャッ!
かわした!
娘曰く、
「一瞬で移動すれば、そのスキマはまっすぐ線が引かれると思った」。
つまりGPSロガーの測位にタイムラグがあるので、2点間をできるだけすばやく移動すれば障害物を避けて迂回した部分が記録されず、凹まずに直線で描けるのではないかと思ったというのだ。
頭いいな。
ごめんね娘ちゃん。アプリの設定をめいっぱいピーキーにしてあったんだ。
その結果、ばっちり凹んでる。
アプリの「一時停止」機能を使う裏技もあるのだけれど……、
「一時停止」している間はログが記録されず(2)〜(6)、再開したところ(7)でまっすぐ直線でつながる。
あまり潔い手法とは言えない、……かな?
なんにせよ、より良い地上絵を描きたくて、試行錯誤する娘の向上心がすごい。
ボクも描いてみた
どのように一筆描きするか深く考えずに、見切り発車してしまったので、無駄が多い。
ひらがなの「み」。
右の二画めに入る部分で「シャッ」とすばやく移動してみたのだが、ばっちり記録されていた。
ウルトラマンレオのお腹についているマークみたいになってしまった。
クイズにして遊ぼう
家族に描いた地上絵を見せてみたら、自分も描いてみたいというので、みんなで遊んでみることにした。
そこそこ広い公園にきた。
寒いので、ボクらのほかには誰もいない。
みんなで遊ぶので、クイズ形式にしてみた。
先頭のひとりが何を描いているのか内緒にしてあちこち歩き回り、他のみんなは後ろからついて歩いて(ただし、GPSアプリは起動させないで)、何を描いていたのか当てるのだ。
第1問
出題者である先頭のひとりはあらかじめ下絵を描いていて、それを元にGPS画面と見比べながら歩いている。
後ろからついていく解答者たちは、各々小さなメモ用紙を持ち、歩きながら向きを変えていく経路を各自の感覚で記録してゆき、いったい何の絵を描いているのかを推理する。
歩き終わって完成を告げられたら、解答者のメモ画を持ち寄って見せあい、それぞれ答えと思う物(名称)を発表する。
いきなり難問がきた。
トップバッターの長男が描いたナニカ。
完成形を見せられても、全員キョトンとしている……。
正解は「戦車」。
……戦車?
抽象度が高くて、GPSがどうとかそういう次元を軽々と超えてきた。
さすがは我が家の惣領。
長男はしきりと「自分は絵が下手だから〜」というのだが、この遊びは絵の巧拙を競うものではない。
クイズ形式にしたことで、上手く描くことよりも、「ナニカ」をどうやって当てるか/当てさせるかという別のステージに入ったのである。
第2問
なんとしても当てたい娘は、出題者の後ろからついてゆくのではなく、一段高いところに登って全体を見渡し、答えを導き出す作戦にでた。
向上心が高まりすぎて、位置エネルギー的にも高い位置に陣取る。
神の視点を得ようというのだ。
次の出題者は妻。
母の後ろをすなおについてゆく息子。
全員があっさり当てた。
できあがった「魚」。
妻はGPS画面をあまり見ず、地面の上を正確に魚の形に歩いた。
その動きをトレースしていた解答者たちは容易に答えがわかったのだが、できあがった魚の絵はガタガタになっている。
GPSで記録されるログは、完璧に正確に位置を追ってくれるわけではなく、ブレやズレがあるものだ。
画面を見ながら歩くことで「思ってたんと違う!」というズレやブレをそのつど軌道修正し、最終的に完成に持っていくスキルが必要になってくる。
そのブレやズレが出題者の奇妙な動きを誘い、変なふうに歩き、じわじわと曲がってもがき、解答者は翻弄されることになる。
別の問題の場合。
歩いた軌跡をたどるのと、動きをたどるのと、どっちがわかりやすいかは場合による。
軌跡をたどるときれいに「小鳥」が見えてきた(左上が正解)。
右と下のふたつは、動きをたどっていて(羽根のくるっと一回転したところでわけがわからなくなって)形が見えなくなっている。
正解の「小鳥」。
メモ帳に描いた軌跡をたどった絵の方がきれいに描けている。
この差がGPSのブレでもある。
出題者が何をどう描きたいのか、読み合い、察し、捕まえようとする。
自信満々に歩いていたと思ったら急に立ち止まったり、微かな動きのためらいをみせたところから「あ、今、うまく描けなくて悶えているな?」と心情を読む。
心理戦の様相もあるのだ。
意識の高い娘
娘は問題にする一筆描きの下絵をあらかじめ20枚くらい描いていた。
完璧主義者ゆえ、歩き始めてはなんども「あ、失敗した」といって記録をリセットし、もう一度やり直す。
真剣勝負。
できあがった絵はみんなほぼ同じ形。
で、これはナニカ。
正解は「栗」。
「かき氷」「どら焼き」「山」。
かき氷と答えたボクは正解じゃないかとくいさがったのだけど、寒い日で季節外れだから「ハズレ」と判定された。
やはり絵の見た目ではなく、描き手の気持ちを読んだ上で解答せねばならない。
神になった息子
息子が神の位置に。
出題者はボク。
ひとりだけ見えているものが違う状態。
自分だけの世界。
ぐちゃぐちゃ。
妻と娘はさっぱりわからなかったらしい。
息子は当てた!
正解は「2020」。
まず千の位と百の位の「20」を描き、次に一の位の「0」を描き、戻って十の位の「2」を描いた。
一筆描きにするためにトリッキーな順序で描いたことで、女性陣は混乱したのだ。
同じものを見て描いたとは思えない迷走っぷりだが、そんな中で息子の解答が完璧すぎてびっくりする。
息子は神であることが証明された。
並んで歩く人たち
ボクも神の位置から眺めてみる。
背の順に並んで歩いているのがおかしくて、笑える。
『ピタゴラスイッチ』にこんな遊びなかったっけ?
「アルゴリズム体操」だ!
♪一歩すすんで前ならえ〜
♪空気入れますシューシュー
♪ひっくり返ってペコリンコ〜
神の位置はボクには向いていなかったので、けっきょく下界に降りてきた。
堕天使だ(違う)。
行ったり来たりしながら描いていたので、みんな似たり寄ったりの絵になったが、その形から連想できるものが「ヘビ」しかない。
「せんしゃ?」と書いているのが息子。
先の自分の出題である伝説の問題作に近い臭いを感じたらしい。
正解は「鏡餅」。
繰り返されるリベンジ
当ててもらえなかった娘の意地が炸裂する。
もくもくと歩く。
娘はふだんまったく運動をしない。
それがこんなに動き回っている。
レアな光景。
執拗に行ったり来たり。
見ているこっちは、なにがなんだかわからないんだが。
正解は「天使」。
堕ちてないほうの天使が地上に現れた。
行ったり来たりして羽を描いていたのだ。
続けて娘は「エビ」を描いた。
しかし出来に満足いかなかったらしく、ふたたび「エビを描く!」と宣言して挑戦。
ギザギザ、ギザギザ。
もう当て物ではなくなっている。
10年ぶりに走る
ギザギザ、ジグザグ動く娘を見ていて、ボクもひとつ思いついたので、ナニカを当ててもらうことにする。
バタバタと走り回るボク。
あんのじょう、急に走り出したボクの動きにみんなが翻弄された。
全員がいい形を描けているんだけど、それがナニカわからない。
正解は「砂時計」。
バタバタ走っていたのは、時計の中の砂のランダムさを表すため。
思い通りうまい具合に描けたのはよかったのだけど、下にたまった砂を先に描いてから上に戻って描き終えたのが、実物の砂時計の時間経過と逆だったから、その点がちょっと意地悪すぎた。
幸せとはナニカ
こんな感じで、
順繰りに、
出題者になって、
「メガネ」。
一列になって、
後ろに並んで、
黙って歩く。
「花」。
並んで歩く、
その姿が、
ただただ面白い。
「Love」。
もうボクはずっと、並んで歩いている家族を見ているだけで楽しかった。
「笑顔マン」。
オマケ・その1
ネコを描こうと思って、ざっと下描き。
慣れてきたので下描きが雑でもだいたい描ける。
口元にアレンジを入れつつ、ネコの顔部分が完成したあたりでちょっと欲が出た。
そのまま全身を描くことにして、歩き続ける。
みよーん、と伸びた。
顔の部分を描いていた時は画面を拡大して狭い範囲を眺めながら描いていたのだが、脚や胴や尻尾を描く際に全体を見渡せなくなってしまった。
全体が見通せない状態で、楽しくなっちゃって、山勘で描いていたらどんどん長くなってしまったのだ。
長いネコ。トム・ロング。『トムは真夜中の庭で』。
オマケ・その2
息子の「戦車」は、本人にしてみれば完璧な出来であったらしい。
しかし、“物言い”がつき、“審議入り”した史上初の作品であったのもまた事実。
自信作の「戦車」が伝わらなかった息子が、コツを掴んだといって描いてきたのがコレ。
(息子はiPhoneの設定をナイトモードにしているので、画面が黒い)。
「フォーク」だ!
今度は全員正解。
自信をつけた息子の最新作。
「ネコ」だよ!
「えーっ、タヌキでしょ?」
「……(ごめん、やっぱりぜんぜんわかんなかった……)」